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山荘綺談

書斎の本棚(小)。

「山荘綺談」シャーリイ・ジャクスン 小倉多加志 ハヤカワ文庫 1995年4月15日 560円 三刷

実家近くの文教堂で買った。欲しくて欲しくてたまらない本だったが、些細な理由で長いこと買わなかった本であった。

私は、本書の児童書を、小学生の頃に読んでいる。アサヒソノラマ刊の、「謎の幽霊屋敷」というタイトルの本だった。
この本は、母についていった千葉そごうの古書市(古本英才教育を受けていたのだ)で買ってもらったもので、怪談大好き小学生だった私は、タイトルだけ見てなんとなく選んだのである。

家に持って帰って読み始めたら、これがもうコワくてコワくてたまらない。コワいのに、面白くて読むのをやめられない。
結局、夜までに読み終えてしまい、なんと、読み終えた直後にもう一回読み始めた。「面白すぎてやめられない」結果、即座に第二ラウンドに突入したのだった。(読書好きを40年以上やっているが、私が「即、第二ラウンドに突入」したのは、「幽霊屋敷」と「生者と死者と」だけである)

ホラー大好き少女は、その夜に、人生ではじめての「怖い夜」を体験した。
私は、怖すぎて、自分の枕元に「幽霊屋敷」を置けなかった。こんな邪悪な物体、置いておけるものかと思った。
そう思って、自分の本棚に本を入れたが、それでもコワくて、夜中にこっそり母の本棚に移しに行った。大人の力が無いと、とてもじゃないが、あの邪悪さを封じ込められんだろう、と思ったのだ。
「幽霊屋敷」の本からは、なんだか邪悪な冷たい風が吹いてくるようだった。作品中に、何度か「説明の付かない冷気」が描写されるところがあるのだが、あれはそういうものからの連想だったのだろうか。

私は、怖いの大好き人間である。ホラー小説も、ホラー映画も、怪談語りも、お化け屋敷なんかも好きだ。私にとって、コワい話は不思議な話であり、ファンタジー小説と同じタイプの面白さを感じるのである。
よく、たいしたこと無いお化け話に、「キャーー!」と言って耳をふさぐ人などいるが、私はあれを、長いこと「そういうジェスチャー」だと思っていた。

また、ホラー映画を見た後に、夜道がコワいとか、寝るときにコワくて電気を消せないとかいうのも、「そういうたとえ」だと思っていた。昨日は疲れて死んでた、という言い方をするときに、本当に死亡してたわけじゃないように、「そういう言い回し」だと思っていたのだ。
私とて、コワい話を読んだら「コワい話だった」というが、それはあくまでも、「コワいというスタイルの面白い話だった」という意味なのである。

しかし、私は「幽霊屋敷」を読んだために、たった一度だが、読者の実生活を、ホラー小説が恐怖で脅かしてくる夜というものを体験した。「幽霊屋敷」は、リアルに怖かった。それは、恐怖の「実体」を持っていた。私は登場人物じゃないとか、こんな幽霊屋敷は実在しないとか、そんなもんは何にも関係ない。
シャーリイ・ジャクスンが、恐怖の実体を私に届けた。それがすべてである。
一度も陥落したことの無かった私の砦を、シャーリイ・ジャクスンが文字だけで突き崩した。文学には、大いなる可能性がある。

かつて私の砦を落としたのは、たった一冊、「幽霊屋敷」だけである。その後38年たつが、私がフィクションを読んで、リアルな恐怖に震えたことは無い。おそらく、もう死ぬまでにあんな読書は体験できまい。
そういう意味でも、ジャクスンは、私にとって唯一無二な存在である。

私は、惚れ込んだ「幽霊屋敷」を、中学生くらいになった頃に、大人の本で読みたいと思って探したのである。
ハヤカワから「山荘綺談」のタイトルで出ていることを探し当て、地元の本屋に注文し、「品切れ」と言われて愕然としたことを覚えている。

しかし、後に古本屋で遭遇し、勇んで買おうとしたら、主人公の名前に引っかかって買うのをやめてしまった。
「幽霊屋敷」では「エリナー」だった主人公が、「山荘綺談」ではエリーナーだったのだ。

そんなことで、と思われる方もいると思う。しかし、私には重要だったのである。エリーナーでは「冷める」のだ。(実は、今でも「冷めるな~」と思っている)
あの、あの恐ろしい夜を私と共有したエリナーとは、別人みたいじゃないか。頭の中で、いちいち「エリーナー⇒エリナー」と変換して読まないといけないじゃないか、そんなの、やってられないじゃないか!

このような、些細と言えば些細な理由で、私にとっては重大な理由で、私は20代も後半になるまで、「山荘綺談」を所有しなかった。
本書を買い、大人の文章で読んだ「山荘」は、児童書の「幽霊屋敷」とは別の恐ろしさも含んでいて、本当はそのことも書きたいのだが、それは次の記事にまわそうと思う。
なぜなら、次の記事も、同じ作品を挙げることになるからである。「山荘」は、「たたり(現在は『丘の屋敷』に改題されている)」というタイトルで、創元からも出ているのである。
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